静けさと彩りと

*そふぃーの森*

エクスキューズミー

外出先で、知らない人に話しかけられる率が高いと自分で思う。
近所なら何の問題もない。
電車やバスを待つ間や、移動中に楽しく過ごせるのですから。

ただ、旅行中に多いのが困りモノ。
道を訪ねられる事や
写真を撮ってくださいと頼まれるなど。
わたしは方向音痴、写真に写るのは好きだが機械操作が苦手で撮るのも下手。
しかし最近はスマホやデジカメが主流、その場で確認出来るので、少し救われている。
インスタントカメラの頃は、思い出を台無しにするというご迷惑をかけ続けていたに違いない。

最近の最大のピンチは
日本語を全く話せない外国人に話しかけられ たこと、だった。

駅の券売機の前で、路線図を見てやっと自分の切符を買い、我が行き先に不安が残りつつ…という瞬間

“エクスキューズミー”

反射的に振り向き、なんとか力になりたい思いとは裏腹に、全く言葉が出てこない。
お互いに、単語とジェスチャーと笑顔のみのやりとりで、一応彼女の目的は果たすことが出来たようだった。

彼女は丁寧に何度もお礼を言ってくださる。
そしてわたしは、「いえいえ…」と満面の笑みで必死に答えようとする。

数歩進めば駅員さんがいたので、全てをお任せするのが最善の策だったなと気付いたのは、
「thank you」
に返す言葉を思い付いた頃だった。

人には得意不得意があり・・・
いや、いい大人が何も話せないとは情けない。
少しでもわたしが話せたなら、彼女はどんなに楽しい旅になっただろう。
どんなに日本の印象が変わっただろう。
などと時間が経つほど考えてしまうが、つたない単語だけでなんとかなるのが不思議だなとも思う。

にもかかわらず、わたしは何故かとても楽しかった。
基本の基本、ご挨拶編から英会話を学ぼうと思った出来事。
きっと忘れかけた頃、どこからともなく
“エクスキューズミー”
はやってくるはず、そんな気がする。


一緒に旅行をしていた知人は、すでに改札を通過していて、ちょっと離れた所からわたしの様子を見ていた。
「楽しそうに話してたね。東京オリンピックのボランティアやりなさいよ」
などと言う。
焦っているわたしの現状が、そんな風に見えていたのか。
どうりで周りの誰も助けてくれないわけだ。


sophie